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彼女のクワガタ趣味が俺の人生を侵食しそうな件 その3

「ささ、京助さん。気になる子はいますか? あまっている子ならプレゼントしちゃいますよ!」
「待て。そもそも、そのオオクワガタだって、もらうとは言ってない」
「え……? あ、はは……そうですよね……」
 さくらは、しょぼんと表情に影を落としてしまう。
 悪いことをしたわけでもないのに、なんだか罪悪感が湧き出てくる。

「い、いや、ほらさ。そもそも飼育ケースとかないし。エサとかも……」
「そういうコトでしたか!」
 ぱぁ、と、再び表情が明るくなるさくら。

「ご安心ください! 飼育ケースなら、いくらでも余ってますよ! 
土から餌箱、当面のゼリーまでプレゼントしちゃいます! 
ささ、これで障害はありませんよね!」

「落ち着け! ったく、なんで、そんなにクワガタを育てさせたがるんだ?」
「え……? そ、それは……えっと……」
 気まずそうに、上目遣いになるさくら。

 これは、もしかしたらもしかするかもしれないと思った。
 宮間さくらは、隣人である俺に一目惚れしてしまったのかもしれない。

 ……ありえない話ではないと思った。

 俺の外見は悪くないと思う。性格も至って真面目。成績は中の上。
 ステイタスが凡人? ノンノン、人間には好みというものがある。
 目の前にいるクワガタ好きの美少女は、偶然にも俺のことが眼球に焼き付いて離れない。
 ま、そんなトコだろう。

「い、いきなりこんなことを言ったら、変な子に思われるかも知れませんけど……」
「ん? どうした?」

 俺は心拍数を落ち着けて平静を装った。
 ほのかな笑みを浮かべると、雄々しく凜々しい視線を、彼女の瞳へと滑らせる。

「初めて見た時……思ったんです! この人……クワガタ好きそうだなぁって……」
 ……帰っていいでしょうか。
「もしかしたら、クワガタを飼っているような匂いを感じたのかもしれません」
 ……匂いますかね。
「あわわ、そういう意味じゃなくて、押し入れとかで幼虫飼ってそうな雰囲気があったのかも……」
 やめろ。一目惚れではないということだけはわかった。魂が抜けそうだ。

 心の中で苦く笑う。はは、これではまるで道化だ。
 ……いや、よく考えろ、俺。
 
 もしかしたら、さくらは照れ隠しで言っているだけかもしれない。
 俺のことが気になってはいるが、
ほぼほぼ初対面のこの場で告白してしまえば、
変な子だと思われるかもしれないから、そういう適当な言い回しをしているだけかも。

 うん? けど、さらに深く考えてみれば、
こいつ部屋いっぱいに昆虫を飼ってる変な子だったわ。
変な子だと思われても気にしない性格してるんだったわ。
 もういいや。

「えっと、その、なんていうか、ほら、クワガタを本格的に飼育している人って少ないじゃないですか」

 うん。少ない。夏になれば買う人もいるが、
部屋いっぱいに趣味として飼育している人は希有だ。
 高校一年生現在、クラスどころか、
学校にそういう奴がいたというのは聞いたことがなかった。

「だから、クワガタ仲間が欲しかったんです」

 ……なるほど。それで、奇異の目で見られようとも、
クワガタをお裾分けして、あわよくば仲良くなろうとしたわけか。

「もしかして、学校でも……?」
「はい。クワガタサークルを作ろうと思ってがんばったんですけど……一人も集まらなくて……」
 こんなかわいい子なら、さほどクワガタが好きではなくても入部しそうなモノだけれど。
「みんな、誘うだけで『気持ち悪い!』って、逃げていくんです。……女子校だからかなぁ」
 ……女子校だからでしょう。

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