FC2ブログ

クワガタ飼育ライトノベル『彼女のクワガタ趣味が俺の人生を侵食しそうな件』その1

宮間さくら

「ええと、この子たちオオクワガタなんですけど――」
「いやいやいや、ちょっと待って。なんでオオクワガタ――って、でかッ!」

平田京助



 俺が知っているオオクワガタとは違う。
 いや、オオクワガタには間違いない。けど、明らかにサイズが巨大すぎた。
 掌に乗せたら圧巻だろう。この時期になると、ホームセンターに売っているのを見かけるが、ハッキリ言って雲泥の差だ。この大顎に挟まれたら、タダでは済まないような気がする。

 驚く俺を見て、彼女は「ふふっ」と、得意気に笑った。
「大きいでしょう! この子、84ミリもあるんですよ! けど、家の中には、もっと大きい86ミリの子が――」

 ――8センチ以上か。
 このような昆虫が山の中にいたら、絶対驚いてしまうだろう。

 オオクワガタと言えば、ちょっとした贅沢品というイメージがあった。
 普通のクワガタが数百円で購入できるのに対し、オオクワガタというのは二、三千円は出さなければならないというイメージ。昔、親父に聞いたことがあるが、二十年ほど前は『黒いダイヤ』と呼ばれて十万円ぐらいしていたそうだ。そう考えると、庶民的な存在になったものだ。

 彼女の手にあるふたつのプリンカップの中には、それぞれ♂と♀が入っている。
 元気いっぱいに動き回っていた。

「これはちょっと……凄いな」
 飼う気などないが、珍しいモノを見せてもらったという気持ちだった。
「へ? す、凄いですか? 興味ありますかッ? そ、それなら、私の部屋に来ます? もっといっぱいクワガタがいますよ! オオクワガタ以外にもたくさんあげられるものがありますから! 是非もらってください!」
「お、俺、そんなにクワガタ好きじゃないぞ!」
「え? あ……ご、ごめんなさい……そう、でしたか」

 しゅん、と、蝋燭の火が消えたように落ち込んでしまう彼女。
 なんだかとても申し訳ないようなことをした気になってしまう。
「いや、嫌いってわけじゃなくて、その、なんていうか好きでもないけど、嫌いでもなくて……きょ、興味はあるんだよね。そのオオクワガタだってかっこいいし」
「本当ですか!」
 目をきらきらさせてこっちを見てくる。なんだろう、眩しい笑顔とはこういうものか。

「じゃ、じゃ! 行きましょ! いっぱいいますから! 絶対、お気に入りの子が見つかりますから!」
 彼女は、テンション高く俺の腕を掴むと、引きずっていくのだった。

「ほらほら、家、すぐそこですから!」
 すぐそこというか、隣じゃないですか。知ってますよ。

 そんなわけで、俺は靴下のまま彼女の部屋へと引きずり込まれていくのであった。
 これではクワガタではなく蟻地獄である。
 というか、いいのだろうか。女の子の部屋に入って。
 こういうのをナチュラルに許されるのって、小学生までだよね。



コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

桑山かたり

Author:桑山かたり
クワガタライトノベルです。
↓をクリックすると時系列順に閲覧できる目次に飛びます。

彼女のクワガタ趣味が俺の人生を侵食しそうな件

カテゴリ
最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR