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彼女のクワガタ趣味が俺の人生を侵食しそうな件 その4

「それじゃあ、飼育用品もプレゼントしますね!」
「いいのか?」
 飼うか飼わないか。迷っていたけれど、これほどまでに勧めてくるのなら、飼ってもいいかと思ってしまう。これをキッカケに仲良くなれるかもしれないし、彼女もクワガタ友達を欲しがっているみたいだし……。

「はい! ケースは使ってない物がありますし、マットとかも余ってますし」
「マット?」
「あ、ええと、土のことですね」
 そう言って、彼女は『真っ黒な土』と『薄い茶色の土』を見せてくれた。

「土っていうのもちょっと変かな? これ、正確には『オガクズ』なんですよね」
 さくらは、薄い茶色の土が入った袋を開けて見せた。

「あれ、この香り……」
 どこかで嗅いだことがある……。
「これはヒノキです。それを削ったものですね」
 袋に手を入れて、ぱらぱら。よくみると、たしかに土ではない。削り節のような感じ。

「ヒノキのマットは、ダニを抑制するんです。清潔感があって、クワガタ初心者さんにお勧めなんです。逆に、こっちのは――」

 焦げ茶色のマットを開けるさくら。
 ふわっ、と、土の臭いがする。なれない臭いだ。

「醗酵マット。文字通り発酵させているので、匂いがきついです。けど、クワガタにとっては、こっちのマットの方が快適なんですよね。産卵させる時は、醗酵マットを使わないとダメなんですよ」

彼女のクワガタ趣味が俺の人生を侵食しそうな件 その3

「ささ、京助さん。気になる子はいますか? あまっている子ならプレゼントしちゃいますよ!」
「待て。そもそも、そのオオクワガタだって、もらうとは言ってない」
「え……? あ、はは……そうですよね……」
 さくらは、しょぼんと表情に影を落としてしまう。
 悪いことをしたわけでもないのに、なんだか罪悪感が湧き出てくる。

「い、いや、ほらさ。そもそも飼育ケースとかないし。エサとかも……」
「そういうコトでしたか!」
 ぱぁ、と、再び表情が明るくなるさくら。

「ご安心ください! 飼育ケースなら、いくらでも余ってますよ! 
土から餌箱、当面のゼリーまでプレゼントしちゃいます! 
ささ、これで障害はありませんよね!」

「落ち着け! ったく、なんで、そんなにクワガタを育てさせたがるんだ?」
「え……? そ、それは……えっと……」
 気まずそうに、上目遣いになるさくら。

 これは、もしかしたらもしかするかもしれないと思った。
 宮間さくらは、隣人である俺に一目惚れしてしまったのかもしれない。

 ……ありえない話ではないと思った。

 俺の外見は悪くないと思う。性格も至って真面目。成績は中の上。
 ステイタスが凡人? ノンノン、人間には好みというものがある。
 目の前にいるクワガタ好きの美少女は、偶然にも俺のことが眼球に焼き付いて離れない。
 ま、そんなトコだろう。

「い、いきなりこんなことを言ったら、変な子に思われるかも知れませんけど……」
「ん? どうした?」

 俺は心拍数を落ち着けて平静を装った。
 ほのかな笑みを浮かべると、雄々しく凜々しい視線を、彼女の瞳へと滑らせる。

「初めて見た時……思ったんです! この人……クワガタ好きそうだなぁって……」
 ……帰っていいでしょうか。
「もしかしたら、クワガタを飼っているような匂いを感じたのかもしれません」
 ……匂いますかね。
「あわわ、そういう意味じゃなくて、押し入れとかで幼虫飼ってそうな雰囲気があったのかも……」
 やめろ。一目惚れではないということだけはわかった。魂が抜けそうだ。

 心の中で苦く笑う。はは、これではまるで道化だ。
 ……いや、よく考えろ、俺。
 
 もしかしたら、さくらは照れ隠しで言っているだけかもしれない。
 俺のことが気になってはいるが、
ほぼほぼ初対面のこの場で告白してしまえば、
変な子だと思われるかもしれないから、そういう適当な言い回しをしているだけかも。

 うん? けど、さらに深く考えてみれば、
こいつ部屋いっぱいに昆虫を飼ってる変な子だったわ。
変な子だと思われても気にしない性格してるんだったわ。
 もういいや。

「えっと、その、なんていうか、ほら、クワガタを本格的に飼育している人って少ないじゃないですか」

 うん。少ない。夏になれば買う人もいるが、
部屋いっぱいに趣味として飼育している人は希有だ。
 高校一年生現在、クラスどころか、
学校にそういう奴がいたというのは聞いたことがなかった。

「だから、クワガタ仲間が欲しかったんです」

 ……なるほど。それで、奇異の目で見られようとも、
クワガタをお裾分けして、あわよくば仲良くなろうとしたわけか。

「もしかして、学校でも……?」
「はい。クワガタサークルを作ろうと思ってがんばったんですけど……一人も集まらなくて……」
 こんなかわいい子なら、さほどクワガタが好きではなくても入部しそうなモノだけれど。
「みんな、誘うだけで『気持ち悪い!』って、逃げていくんです。……女子校だからかなぁ」
 ……女子校だからでしょう。

彼女のクワガタ趣味が俺の人生を侵食しそうな件一覧

クワガタ飼育ライトノベル
『彼女のクワガタ趣味が俺の人生を侵食しそうな件』

平田京助宮間さくら




目次はこちら。
青文字をクリックすると各エピソードに飛びます。



プロローグ

その1

その2

その3

その4


現在、執筆中です。物語は目下継続中です。

クワガタ飼育ライトノベル『彼女のクワガタ趣味が俺の人生を侵食しそうな件』その2

 というわけで、クワガタオタクの女の子の部屋へとやってきた。
 部屋の中は圧巻だった。このアパートは2DKなのだが、一室を昆虫部屋にしてしまっている。そこには、数多の飼育ケースがあった。
 覗いてみると、見たこともない、おそらくクワガタなのであろう昆虫が動いている。

「おお、なんだこれ? 凄く綺麗だけど……クワガタなのか?」
「はい! それはニジイロクワガタです! 世界一綺麗なクワガタって言われてるんですよ。玉虫色が基本で、他にもルビーのように赤い個体や、エメラルドのような緑色の個体もいるんです! ほら!」
 そう言って、彼女は様々な色のニジイロクワガタを見せてくれる。

ニジイロ

 ニジイロクワガタもきらきらしているが、彼女の瞳もきらきらと輝いていた。
 クワガタを語る彼女は、とても無邪気で子供のようだった。

「そして、これは凄いですよ。ふふふ。100ミリ越えのパラワンオオヒラタクワガタです。超凶暴なので、挟まれないでくださいね」
 今度は、飼育ケースに入った、100ミリとかいうちょっとした小動物並に巨大なクワガタを見せられた。

パラワン


 こんなのが木に止まっていたら、思わず二度見してしまうと思う。
 彼女が、ペンで軽くコツくと、ぐわっと身体を持ち上げて威嚇してきた。うん、凶暴だというのもわかる気がする。

「……そういえば……名前とか、聞いてなかったな」
「あ……。はは、ですね。私は、宮間さくらといいます」
「俺は、平田だ。平田京助」



クワガタ飼育ライトノベル『彼女のクワガタ趣味が俺の人生を侵食しそうな件』その1

宮間さくら

「ええと、この子たちオオクワガタなんですけど――」
「いやいやいや、ちょっと待って。なんでオオクワガタ――って、でかッ!」

平田京助



 俺が知っているオオクワガタとは違う。
 いや、オオクワガタには間違いない。けど、明らかにサイズが巨大すぎた。
 掌に乗せたら圧巻だろう。この時期になると、ホームセンターに売っているのを見かけるが、ハッキリ言って雲泥の差だ。この大顎に挟まれたら、タダでは済まないような気がする。

 驚く俺を見て、彼女は「ふふっ」と、得意気に笑った。
「大きいでしょう! この子、84ミリもあるんですよ! けど、家の中には、もっと大きい86ミリの子が――」

 ――8センチ以上か。
 このような昆虫が山の中にいたら、絶対驚いてしまうだろう。

 オオクワガタと言えば、ちょっとした贅沢品というイメージがあった。
 普通のクワガタが数百円で購入できるのに対し、オオクワガタというのは二、三千円は出さなければならないというイメージ。昔、親父に聞いたことがあるが、二十年ほど前は『黒いダイヤ』と呼ばれて十万円ぐらいしていたそうだ。そう考えると、庶民的な存在になったものだ。

 彼女の手にあるふたつのプリンカップの中には、それぞれ♂と♀が入っている。
 元気いっぱいに動き回っていた。

「これはちょっと……凄いな」
 飼う気などないが、珍しいモノを見せてもらったという気持ちだった。
「へ? す、凄いですか? 興味ありますかッ? そ、それなら、私の部屋に来ます? もっといっぱいクワガタがいますよ! オオクワガタ以外にもたくさんあげられるものがありますから! 是非もらってください!」
「お、俺、そんなにクワガタ好きじゃないぞ!」
「え? あ……ご、ごめんなさい……そう、でしたか」

 しゅん、と、蝋燭の火が消えたように落ち込んでしまう彼女。
 なんだかとても申し訳ないようなことをした気になってしまう。
「いや、嫌いってわけじゃなくて、その、なんていうか好きでもないけど、嫌いでもなくて……きょ、興味はあるんだよね。そのオオクワガタだってかっこいいし」
「本当ですか!」
 目をきらきらさせてこっちを見てくる。なんだろう、眩しい笑顔とはこういうものか。

「じゃ、じゃ! 行きましょ! いっぱいいますから! 絶対、お気に入りの子が見つかりますから!」
 彼女は、テンション高く俺の腕を掴むと、引きずっていくのだった。

「ほらほら、家、すぐそこですから!」
 すぐそこというか、隣じゃないですか。知ってますよ。

 そんなわけで、俺は靴下のまま彼女の部屋へと引きずり込まれていくのであった。
 これではクワガタではなく蟻地獄である。
 というか、いいのだろうか。女の子の部屋に入って。
 こういうのをナチュラルに許されるのって、小学生までだよね。



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桑山かたり

Author:桑山かたり
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彼女のクワガタ趣味が俺の人生を侵食しそうな件

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